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鬼の霍乱 陸 マラリア

小島 秀輝

「源氏物語」では、若紫の巻の文頭に「わらわやみにわづらひ給ひて、よろづに、まじない、加持など、まゐらせ給へど、しるしなくて、あまたたび起こり給へば」とあります。

「わらわやみ」とは「瘧」のことで、当時は生薬による治療だけでなく、加持祈祷で治療していたことも注目です。

たびたび発作を繰り返したことから、加持祈祷ではやはり瘧を治すことができなかったのでしょう。

現代人にとっては違和感を覚える話ですが、医疾令の中には、内科や外科、小児科などと並んで、鍼灸や按摩があり、さらには呪術も含まれていました。

平安時代、加持祈祷は立派な治療の科目の一つでした。


古来、瘧と呼ばれた「マラリア」に近代医学の成果が見られるようになったのは、1880年にフランス軍軍医ラヴェランがマラリア患者の血液中にプラスモジウムという原虫を発見し、血液中の寄生虫が原因であることを発表したことからです。

かつて西アフリカ諸国は奴隷海岸と呼ばれていて、マラリアが猛威を振るっていました。

マラリアに抵抗力のない白人は、戦地で次々と命を落とし、「白人の墓場」とも呼ばれました。

戦上手のナポレオンは「マラリアを制した者がアフリカを征服する」という言葉を残したほどです。

そんなアフリカで、マラリアとの長い戦いの歴史を持つ現地の人々は、独自の治療法を行っていました。

例えばガーナではマラニアの熱発作が起こると、頭から布をかぶって、その中で熱発作に効くとされる大木の葉を燻し、その葉を煎じた苦い薬を飲まして治していました。

アヴェランによる寄生虫の発見で、戦時中にドイツでアテブリンが開発され、その後、クロロキンという特効薬が開発されたことで、撲滅間近と思われたこともありました。

しかし自然とは手ごわいもので、1950年代に入ると特効薬の効かないマラリアが出現し、人類の歴史と同じくらい長い歴史を持つマラリアとの戦いが今なお続いています。

マラリアが撲滅されたと思われた地域で流行が再熱し、確実に効果がある予防薬がないのが現状です。

そんな状況の中、今、流行地で広く使われている抗マラリア薬に、中国で瘧病に使われてきた青蒿素(チンハオス)というヨモギの一種を入れた製剤があります。

青蒿は清代の呉鞠通が残した温病条弁の中に出てくる生薬です。

1972年、その蒿からアルテミシニン(青蒿素)を取り出すことに成功しました。

中国医学発祥から受け継がれてきた熱病の研究が温病学として結実したことになります。

また、古来アンデス地方で伝統的に使われていたキナ皮を使った解熱剤も抗マラリア薬として見直されています。


現代の世界人口の半数がマラリアの流行地に住んでいることから、瘧(マラリア)と人類の戦いの歴史を知ることはとても重要です。

世界人口の約1億人以上がマラリアを発症していると言われており、しかもアフリカにおける乳幼児の死亡原因の第一位がなんとマラリアなのです。

47歳の道長が瘧疾を克服できたことは、彼の生命力の高さと当時の医療レベルを知る貴重な話だと思います。

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