風邪の治療例 「咳」
80歳代の男性Iさんは、体格のしっかりしたお父さんです。 数年前に右膝関節を悪くして、病院にて手術しかないと診断された経歴があります。 鍼灸治療の甲斐があって、今ではまったく膝の痛みが無くなり、屈伸も問題なくできるようになりました。 しかも、一日に三回以上あった夜間尿がなくなり、朝までぐっすり眠れるようになりました。 現在は、三週間に一回ほどのベースで、体調管理を目的で、奥さまと一緒に治療に来られています。 今回は、風邪をひいてから咳が止まらない様子で、奥さまが、「お父さんの咳がうるさくてしかたない」と苦情を言われるほどです。
確かに、治療院に来られて治療室に入るまでの間、咳が頻繁に出ているのを確認していました。
四診をしましたが、特に問題がないため、いつもどおりの治療を始めました。 順番に治療を進めていきましたが、いつもと変わらない治療内容で、特に風邪が残っている様子がありません。
「風邪は抜けてるみたいよ」と私が言うと、
「咳はなんで出るんやろう」とIさんが質問されるので、
「治療途中だからもう少し様子をみましょう」と、治療を淡々と継続しました。
その会話のあと、しばらくすると、来院された時は頻繁に出ていた咳が、治療中盤からは徐々に出なくなっていき、しまいには全く出なくなっていました。 隣で治療を受けていた奥さまも、「いつのまにか咳が止まったやんか」と驚くほどの変化でした。 風邪には咳が付き物と思われる方も多いと思いますが、必ずしもそうとは限りません。 今回の咳は、風邪が治癒した後に残ってしまった喘息のような咳だったようです。
いつもどおりの治療をしただけで、咳が止まったことから、体質と関係する症状であると思われます。 東洋医学的に「咳」のメカニズムは、気が上方にのぼせることですから、気を下に降ろすことが治療目的となります。 このお父さんは、日常的に「気滞」と「腎虚」があるので、今回もその調整をするだけで良かったことになります。 結果的に、治療の途中から咳が治まりましたが、どなたでもこのように咳が楽になるとは限らないのが、風邪治療なのです。