葛根湯医 漢方編
落語では、やぶ医者、偽物医者として扱われる葛根湯医ですが、東洋医学の世界では「名医」として敬われます。 生薬の研究として注目されないのに、なぜこの薬を使うと名医となり得るのか? それは葛根湯の中に配合される生薬に秘密があります。 葛根湯は、桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草・葛根・麻黄の七つの生薬から成り立ちます。 桂枝は「辛温解表」の役割があり、血管を拡張することで血流を促進します。動悸・頭痛・胃痛に効果あり。 芍薬は「補血」の役割があり、肝血を補い、肝陰の消耗を防ぎます。筋肉の緊張を緩める効果があり、鎮痛や痙攣を緩和します。 麻黄は「発汗解表」の効果で水分を体外へ排出します。利水作用以外に、咳・むくみ・蕁麻疹に効果あり。 葛根は皮膚の熱を取り除く作用があります。肩こりや喉の渇き・下痢に用います。 生姜は大棗と合わせて用いることにより、陰と陽のバランスをとります。吐き気や痰を除くことに作用します。 大棗は衛気と営気のバランスを良くしたり、薬の効果を調整したりします。精神を安定させる作用もあります。 甘草は薬の調整として使われて、消化器を助けます。喉の渇きを止めたり、筋肉の痙攣を緩和したりします。 生薬にはそれぞれに重要な役割があるため、この中身を微妙に変えたり、量を変えたりすることで、いろいろな症状に対応する薬へと変貌させることができます。 渇根湯の7つの生薬を上手に配合すれば、肩凝り、頭痛、関節痛、腹痛を治すことも可能になるかもしれません。
漢方の処方には、「君臣佐使」の考え方があり、 君薬は、作用の中心的役割 臣薬は、君薬に次いで重要な作用 佐薬は、君薬を助ける役割 使薬は、君臣と佐薬の補助的役割 これら四つの分類に基づいて、それぞれの生薬の効果を上手に引き出すことが大切であります。
そもそも風邪の初期症状には、悪寒・発熱・頚肩こり・関節痛・胃腸症状が出るため、それに対応するように作られているのですが、あくまでも風邪によって引き起こされた症状に用いることを忘れてはいけません。 葛根湯という固定した内容ではなく、それに工夫を加えることであらゆる病気に対応する匠の腕があるからこそ、名医として敬われるようになります。 只の葛根湯は、風邪薬の一つに過ぎず、生薬の世界ではメジャーでないことにかわりありません。 まして、エキス剤で配合を変えずに使われるようでは、落語の小噺と同じではないでしょうか。