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  • 小島 秀輝

君の名は




ガラス越しにこちらを見ている番犬、名を「くろべ」と言います。

前回のブログ、「牛になる」で紹介した逆流性胃炎を発症したTさんの愛犬です。


Tさんは腰部脊柱管狭窄症があり、両膝の変形と痛みがあります。

往診をするようになって4年が経過。

ご自宅を訪問するたびに、くろべが迎えてくれます。


初診時、くろべから酷く吠えられましたが、しばらくするとすぐになつかれまして、現在は背中を指圧してみたり、櫛で毛並みを整えてみたりと仲良くしています。


Tさんを治療中、くろべはいつもガラス付近で顔を床に着けて休んでいるのですが、この日は心配そうにこちらを覗き込んでいました。

逆流性食道炎を起こしているので、いつもの治療に加えて、消化器の治療をすることになったからです。

今回の治療の目玉になったのは、足の三里へのお灸です。

「吐腹は三里にとどめ」という言葉があります。

お腹の調子を崩した時、便秘や下痢の時、腹痛がひどい時など、足三里の効果は絶大です。

私が食中毒で苦しんだ時、嘔吐と下痢があまりにも酷かったのですが、その窮地を救ってくれたのもこの三里の灸でした。

救急車を呼ぶか迷ったほどの食中毒でしたが、たった一晩で治すことができました。

古の先生の説に、「三里は胃、脾、腎に効く。故に三里という。里は理に通じる。すなわち三里である。三里には、先天と後天の気を養う効力があるので、元気が衰えない。故に長命の灸という」とあります。

昔から有名なツボとお灸の話で、あの松尾芭蕉の俳句にも出てまいります。


この日は久しぶりに三里に灸をしたのですが、他のツボと比べてたいそう熱かったそうです。

Tさんの悲鳴を聞いた後のくろべの写真、心配そうに部屋の中を覗き込んでいるようにも見えます。

三里の灸は少し熱く感じたようですが、効果はてき面、吐き気が軽減しました。

いつもと異なるTさんの治療内容に、くろべが気づいていたのかもしれません。

それにしても、ご主人を気遣う犬の姿にとても感動しました。


三里の灸の効能にも驚くのですが、くろべの生態にも不思議に思うところがあります。

くろべが私を出迎えてくれるのはいつものことです。

難聴も患っているTさんは、インターフォンの音が聞こえないことが多く、携帯音にも気づかないことも良くあります。

そのため、番犬くろべの動作と吠え方で訪問者を識別しています。

往診は車の時と自転車の時があるのですが、どちらの際でも5分前には玄関を向いて待ってくれているようです。

Tさん曰く、「私の匂いで来る時間がわかるのかしら」とのことですが、自動車の場合はさすがに匂いはご自宅まで届かないのではないでしょうか。

自転車であっても、風向き次第ではくろべの鼻にまで私の匂いは届かないと思うのですが…。

雨天以外で、私を無視して待っていない姿を見たことがありません。


どのようにして私の訪問をキャッチしているのか、未だに明確にできないでいます。

オーストラリアの原住民、アボリジニーには、言語が少ない代わりに、テレパシーのように相手の行動をキャッチする能力があると聞いたことがあります。

どういう原理が働いているのか興味が尽きませんが、くろべを見ていると我々にもそんな能力があるのではないかと思ってしまいます。

日本人には「以心伝心」という言葉があるのですから。


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