- 小島 秀輝
水と三焦
生物の生命活動において、「水」は欠くことができない物質です。
宇宙規模のマクロ視点でみると、太陽の光で瑠璃色に輝く地球があるのも、豊かな水に恵まれた稀有な惑星だからです。
この豊かな水によって、多くの生物が誕生しました。
地球というマクロコスモスにおいて水の循環はとても大切で、地球の温度、海流、気象など地球環境と密接な関わりがあります。
いにしえの人は、このような地球の水の循環を自然観察し、人体の生命現象に置き換え、医療に活用するようになります。
この地球においてミクロコスモスである私たちの体内には、体重の60%の割合で、水が備わっていると言われています。
東洋医学ではこの水分のことを「津液」と称し、人体を構成し、人体の生命活動を維持する基本物質の一つとしています。
津液の種類には体液の他に、涕(はなじる)・泪(なみだ)・唾などの分泌液、汗や尿などの排泄物があります。
古典の「霊枢・五癃津液別」に「津液は各々その道を走る、故に三焦気出で、もって肌肉を温め、皮膚を充たすものを津と為し、其流れて行かざるものを液と為す」とあります。
「三焦」という腑が、津液の代謝に深く関係していることがわかります。
津液に係わる臓腑は、三焦だけではありません。
津液の生成には、胃、脾、小腸、大腸による「消化吸収機能」を通して行われます。
その後、脾、心、肺、腎の四臓の共同作用によって、身体の全身に「輸布」されます。
「余剰の水分と排泄物」は、肺、大腸、腎、膀胱などの臓腑の共同作用が必要です。
このように生成・輸布・排泄という津液の循環において、五臓六腑の多くの器官が関与し、それらが協調して働いています。
津液に係わる五臓六腑の働きは、弦楽器・管楽器・打楽器などで構成されるオーケストラのようであり、その中でも三焦の役割は、それらを統率する指揮者のようなものです。
「名ありて形なし」と呼ばれる臓腑は、臨床においてもあまり目立つ存在ではありません。
ところがその経絡には「陽池」と言うツボがあり、生命力が弱ったときに絶大な力を発揮します。
すべての臓腑を奮い立たすようなその効果は、ひっそりと目立つことない三焦の秘めた役割にあります。
「孤の腑」と別名があるのも、このようなところにあるのかもしれません。
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