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診断と「証」

健康と病

西洋医学と東洋医学の違いについて聞かれることがよくあります。

西洋医学と東洋医学は同じ医学であっても異なる点があまりにも多く、その違いを一言でお答えするのが難しい上に、わかりやすく説明することにも苦慮してしまいます。

なかなか良い返答が浮かばなかったのですが、テーマを「病の診断」に置くことでわかりやすくなるのではないかと思いつくことができました。

「診断」で説明をしようと思いついたときに、真っ先に頭に浮かんがだのがTさんでした。

Tさんは、私が鍼灸治療をしている患者さんで、10年以上に渡って身体の管理をさせてもらっています。

現在、75才になられるのですが、今までに多くの病を経験し、今なおさまざまな症状を抱えておられます。

西洋医学での診断と治療を経て、今では東洋医学である鍼灸治療と漢方薬を中心として、治療を続けておられます。

西洋医学は5分間診断と呼ばれるように、検査には時間をかけても、診断と処方の決定はいとも簡単に済んでしまいます。

医院の待合で何時間も待たされて、診察時間は数分というのが現代医学です。

どこでもある一定以上の治療を受けることができる西洋医学ですが、ある意味便利で安定した医療を受けることができる一方、どこに行ってもマニュアル通りの同じ治療になる傾向もあります。

例えば「腰痛」と診断された場合、どこの整形外科でも湿布と鎮痛剤が出るのが関の山ではないでしょうか。

例えば、Tさんは60才になって左股関節に重度の変形を患い、人工関節を受ける手術を総合病院で行いました。

手術は無事に成功したのですが、なぜか一向に歩けるようになりません。

手術前に歩行時に出ていた股関節の痛みは軽減しましたが、手術後に腰部へと痛むところが移動して、股関節痛と腰痛の両方で悩むことになりました。

手術を担当した医師に状況を伝えても、「手術には問題がない」との一点張りで、それ以外のことは「リハビリで改善するように」と指示を出すだけだったようです。

おまけに湿布薬を山のように出されて、それを真面目にきちんと使用しているので、常に湿布薬の臭いが周囲に漂う状況が続いていました。

医師の指示通りにリハビリに専念して腰痛を改善しようと試みたのですが、腰痛が徐々にひどくなり、とうとう外出もできないほど悪化してしまいました。

一向に良くならない状況に困り果てたTさんは、知り合いの方の紹介で鍼灸治療を受ける決意をされます。

指名された私が初診で治療した際、Tさんは鍼灸治療がどのようなものか全くご存知ありませんでした。

このようなことは珍しいことではなく、鍼灸治療はすべて東洋医学である」と勘違いされている方がとても多いように感じています。

そのため、Tさんは腰から股関節にかけて激しい痛みが出るので、痛いところに針や灸をしてもらえると思っておられました。

ところが、初診時の鍼灸治療の時に、私は腰の周囲に何もしませんでした。

腰に針を一本も打ってもいないのに腰痛が楽になったことで、Tさんはとても衝撃を受けたご様子でした。

不思議そうに痛みの出ていたところを触っておられたのが、今でも私の印象に残っています。

実は、「痛みがあるところに原因があり、それに対して何か治療をする」という考え方は、西洋医学の特徴です。

西洋医学の治療に慣れしたしんだ人ほど、症状の出ているところに意識がいく傾向があるように感じます。

「東洋医学は、部分的なことよりも、全体的なバランスに重点を置く医学」であること、そして「それこそが西洋医学と全く異なること」をまずは覚えて欲しいところです。

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