治療と治癒
実際の治療例でこのことをみてみます。
例えば、風邪をひいた際に、病院で診察を受けて、何らかの薬を処方してもらったとします。
喉の痛みには消炎鎮痛剤、発熱には解熱剤が出されるかも知れませんし、抗生物質が出ることも多々お聞きします。
これらの治療は、病を癒すというよりは対処療法であり、症状による苦しみを緩和することにしかなりません。
しかも抗生物質は細菌感染への処方のため、ウイルスにはまったく効果がありません。
発熱は、ウイルスを撃退するための治癒メカニズムの一種であり、熱を下げることは治癒を遅らせる可能性があります。
次に風邪が悪化して、細菌性肺炎を引き起こした場合はどうでしょうか?
風邪とは異なり、生命をおびやかすほど深刻な感染症です。
肺炎球菌による発症ですから抗生物質の点滴は適切といえます。
これによって、回復しやすくなり、肺炎が治癒へと向かい易くなります。
そして完全に治癒を迎えるのですが、この時に肺炎を治したのは何でしょうか?
おそらく、医者や患者さんの多くの人は、治療のおかげと答えると思います。
しかし、医師が処方した抗生物質の役割は、身体に侵略した細菌の数を減少させることに過ぎないのです。
つまり、治癒メカニズムである免疫系がその役割をやり遂げやすく、またやり遂げる状態へと内部環境を整えることなのです。
もしも抗生物質の応援が無ければ、恐ろしいほどの数や毒素を持つ細菌に身体が圧倒されてしまい、体力が費えて感染を克服できなかったかもしれません。
肺炎の場合、抗生物質のおかげで肺炎球菌が減少し、免疫機能がその役割を果たすための環境を整えてくれたことになります。
しかしながらこの場合でも、抗生物質には細菌を減らすことしかできないのであり、実際に傷ついた身体を治癒するのは免疫系なのです。
免疫系はそれ自体が「治癒メカニズムの構成要素」の一つです。
そして、適切な治療が施されたり、されなかったりしても、すべての治癒に共通する最終的要因は「治癒メカニズム」にあることになります。
このことは、すべての病にあてはまることですから、よくよく理解してもらい、今後の医療に役立てて欲しいとおもいます。
治療と治癒は同じものでしょうか?
この問題を深く思案し、理解していただくことが、「医療との関わり」に大きく影響すると思われます。
私たちがこの世で生きている上で、避けて通ることができないもののひとつに「病」があります。
もしも病になった際、それを治す力はどこにあるのでしょうか。
体の不調を感じたら、すぐに病院で診察を受ける方がおられます。
どんな病かを診断してもらうことは大切ですが、治療が適切なのかどうかを考えることはさらに重要になります。
西洋医学に頼る方の多くは、薬や手術などの医療行為が不可欠であり、それら自体が病を治すものと信じて疑わない傾向があります。
「治療」とは、治癒へと向かわせる力を促進したり、治癒を妨げる障害物を取り除くことです。
それは外部からほどこされるものであり、他力的な要素と言えます。
一方、「病を癒す力」とは、本来は内部から生じるものであり、自力的な要素なのです。
つまりその治癒力自体は、生まれながらに個人に備わっている治癒メカニズムにあるということです。
ある治療が効果を発揮するのは、治癒メカニズムを活性化させることができたからであり、治療そのものが病を癒すことにならないことを認識してほしいと思います。
治療と治癒は決して同じものではないのです。