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「朔風」とは何か

  • 11月26日
  • 読了時間: 3分
朔風払葉:冬の“はじめの風”と養生の知恵
東洋医学の和鍼治療院

小雪の頃になると、北から吹き下ろす風がぐっと冷たさを帯びてきます。この風を、古くから「朔風(さくふう)」と呼んできました。朔風は単なる北風ではありません。そこには、古い漢字文化・季節観・東洋医学の全てが重なる奥深い意味があります。

■ 朔とは「はじまり」「北」「陰極陽生」の象徴

「朔」は、新月を示す言葉として知られています。『説文解字』では「月初なり」とあり、月が光を取り戻す直前の“はじまり”を表す文字です。一方で、古代中国では朔は「北方」を意味する語としても使われました。人は南を向いて座るのが正位とされたため、背後=北=遡る方向を「朔」と表したのです。

さらに東洋思想では、北は陰が極まる場所。その陰が極まった先で、陽が静かに芽生えると考えられています。つまり朔とは、“陰が極まり、陽が生まれ始める転換点”を象徴する文字でもあるのです。

■ 朔風=冬の気が立ち上がる“はじめの風”

この朔が風につくと「朔風」。文字どおり「北から吹く、季節の転換点を告げる風」という意味になります。

小雪から大雪にかけては、自然界の陽の力がもっとも弱まり、陰が深まる時期。朔風はその陰の気を運び、樹々の葉を払い落とすほどの冷えをもたらします。これが「朔風払葉(さくふう はらいは)」という季語です。

葉が落ちるのは、自然が“陽を養う準備”に入ったサインでもあり、私たち人の身体も同じ動きを始めます。外へ向かう活動性を手放し、内へエネルギーを蓄える方向へ。

■ 東洋医学では「朔風=腎を冷やす風」

東洋医学の気象論では、北の風は“寒の気”を最も強く帯びた風です。臓腑では「腎」を冷やし、

  • 冷え

  • 頭痛

  • 腰痛

  • むくみ

  • 夜間の頻尿など、冬の不調の原因となると考えられています。

これは易学の八卦で、北が「坎(水)」に配当されていることと一致します。坎は冬・黒・腎を象徴し、“しみ込む冷え”の性質を持ちます。つまり朔風は、“腎へ深く入り込む冷えの風”として、冬の養生において非常に重要な存在なのです。

■ 朔風の季節に実践したい養生

朔風払葉の時期は、身体が内へ沈み、陽を蓄えるための準備期間です。ここで無理に頑張りすぎると、冬本番で気力が落ちやすくなります。

● 温める場所は「首・腰・足裏」

腎は「腰」に宿る臓。首と足裏は冷えが入りやすい“風の侵入点”。マフラー、レッグウォーマー、湯たんぽなどで外気から守りましょう。

● 黒い食材で腎を補う

黒豆、黒胡麻、昆布、ひじき、里芋、山芋など、黒を帯びた食材は腎を養います。

● 早めの就寝

陰をしっかり蓄えるには、夜に身体を沈めることが不可欠。就寝時間をいつもより少し早めるだけで、冬の疲れが出にくくなります。

■ まとめ

朔風とは、北から吹き下ろす冬の“はじまりの風”であり、自然界と人の身体を深く静める風。葉が落ち、陽が静かに育つ準備が始まるこの時期、養生のポイントは「無理せず、温めて、早く眠る」ことにあります。

自然のリズムに寄り添うことで、冬至へ向かう身体の巡りは驚くほど整っていきます。朔風を合図に、今年の冬を健やかに乗り切る準備をしてみませんか。

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