80歳代の女性Sさんは、難聴と耳鳴りがあり、腰痛、肩こり、膝関節痛、不眠症など、いろいろと不定愁訴があり、普段から自宅で安静にしていることが多いおばあちゃんです。
この日は鼻水と痰が多く出るので、何とかして欲しいということでした。
実は3日前にお孫さんから電話があり、『おばあちゃんが夕方から「胃が痛む」といって呼吸も苦しそうな状態なので、どうしたら良いですか』と相談を受けていました。
その日の早朝に治療をしていたのですが、この時点ですでに初期の風邪引き状態でした。
ご本人が自覚する前の段階であり、風邪の調整もしっかりとしたはずでした。
ほとんど場合、この時点で治ることが多いのですが、時々、逆に発熱が起こることもあります。
その時の治療中の会話では、お昼ごはんにたこ焼きを食べる予定で、それを楽しみしておらる様子でした。
お孫さんから電話があったのが夕方の6時ごろで、食後5時間は開いていることが判明し、食事が原因ではないと予想しました。
「胃が痛む」ことに間違いないのか、もう一度お孫さんに頼んで確認を取ってもらったのですが、おばあちゃんの返事は同じでした。
吐き気や下痢がなく、夕方の時点では発熱もないとのことでした。
難聴のため、これ以上のことは電話では聞き出すことができないと思い、すぐに治療を薦めたのですが、二日後の治療まで様子を看たいとのことで、経過だけでも連絡をもらえるようにお願いして電話を置くことにしました。
翌日、電話があり、胃の痛みはすぐに良くなったそうで、夜中に38度を超える発熱があったそうです。
そして、胃の痛みと思っていたのは、実はみぞおちの痛みであったこともわかりました。
食欲もあり、安静にして様子を看たいとおっしゃるので、解熱剤だけは使わないように指示をして翌日の治療を待つことにしたのです。
治療日、診断ではすでに風邪の状態ではなく、体質に関係する症状がある普段の状態でした。
鼻水と痰に関係する反応は治療途中から出ていたので、それも加えて治療しました。
すべての調整が終了する頃には、鼻水と痰が軽減し、ガラガラしていた声も改善し、喉のとおりが良くなりました。
先ほどまで痰の薬を飲まないといけないと言っていたおばあちゃんも、「これなら飲む必要がなさそうだ」と、ようやく納得してもらえたのでした。
Sさんは対処療法に頼る傾向が強く、頭痛、発熱、便秘、関節痛、血圧、血糖値など、たくさんの薬を飲まれます。
普段、体温が35度台しかないところ、38度まで発熱できたことは喜ばしいことで、風邪を治すためには必要な作用です。
詳しく聞いてみると、みぞおちが痛んだときは悪寒がひどくて、カイロをたくさん張っても温もらなかったようです。
激しい悪寒と38度を超える発熱があり、みぞおちが痛んだということが問診にてようやく判明しました。
四診の一つである切診には、腹部で診断する腹診があります。
その腹診では、みぞおちの緊張は、頭部や頚の病気を意味することがあります。
今回、頚の後ろに感じた悪寒の影響で、みぞおちに痛みが出た可能性が否定できない状況です。
これらのことを総合的に考えて、一番整合性の高いことを「証」として導きます。
発熱時、みぞおちが緊張しているときに体表観察ができていないため、決定的な証拠にできないのが残念ですが、問診だけの「証」としては、今回のみぞおちの痛みの原因は風邪と関係があるとして良さそうと判断しました。
今回のおばあちゃんの風邪の移り変わりをまとめると、
風邪を引いていたいたSさんは、午前中の鍼灸治療では完全に風邪を治癒することができず、夕方から悪寒と発熱を感じるようになりました。
その頃にみぞおちあたりに痛みを感じて、胃の痛みと勘違いするほどでした。
幸い、二日後には熱も平熱に戻っており、鼻水と痰がたくさん出て、喉がガラガラとして、声が出にくい状態がつづいていました。
さらにそれぞれの症状に解説を加えますと、鼻水と痰は残っていましたが、すでに悪寒のある状態ではありません。
これは発熱が効果があったと思われます。
この発熱が38度を超えない場合、回復が遅れることが多いように思います。
低体温の方が風邪の回復までに時間がかかる理由の一つであると考えています。
鼻水と痰は、水分代謝と関係があり、食事との関係を考慮する必要があります。
以前から消化器に問題が出やすいSさんでしたが、今回は久しぶりにはっきりとツボと脈に反応が出ていました。
のど飴をよく口に入れていたようなので、不要な栄養分が痰となって溢れ出たのだと判断しています。
鍼灸治療で消化器の調整をしたのち、すぐに鼻水と痰が減少したことからも間違いないと思います。