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虚里の動

虚里の動

「虚里の動」と書いて、「コリのドウ」と呼びます。

西洋医学にはない考え方で、東洋医学独自の優れた体表観察のひとつです。

「虚里」とは、胃の大絡のことであり、左乳下の心尖の拍動部を意味します。

「大絡」とは、十五絡脈のことで、五臓六腑の十二経絡に各々一つずつの絡脈があります。

これに、陽を束ねる督脈、陰を束ねる任脈、脾臓の大絡の三つを加えて「十五絡脈」となります。

脾臓だけ、大絡が二つあり、「後天の気」を重要視している東洋医学の特徴が良く現れているところです。

 

絡脈の役割は、表裏内外を通じさせることにあります。

そもそも気が流れている体表の経絡は、体内にある臓腑と関連しています。

経絡には陰陽の二種類があり、臓と腑の表裏関係も陰陽であります。

大絡はこの結びつきを強固にする役割があるとされています。

さらに経絡は肌肉を走行するのに対して、絡脈は皮膚表面の浅いところを走行し、全身を隈なく走行することから、体表観察で邪気を探すために用いることになります。

十五絡脈には、それぞれ「絡穴」があり、邪気の診断場所であるのと同時に、治療点としても重要な役割があります。

 

十五大絡には、「胃の大絡」は含まれていません。

ところが別絡が十六あるという考え方があります。

゛胃の大絡、名づけて虚里といわく、膈(横隔膜)を貫き肺を絡い、左の乳下に出て、その動は衣に応ず、宗気を脈うつなり゛

十五絡では、十二の経絡の中において、「脾」だけが特別二つ目の絡脈を持ちます。

「脾」と「胃」は、臓腑関係では陰陽であり、表裏関係として結びつきが強固です。

そのため「胃の大絡」を十六番目の大絡に位置づけることは不思議なことではありません。

しかも東洋医学は後天の気としての「胃の気」を重んじます。

後天の気は胃と脾の臓腑の役割によって生成されるため、この二つが特別扱いされる理由であると推測できます。

 

「虚里の動」は、左乳下の心尖で拍動を確認します。

先天の気がしっかりしている状態、つまり「元気」があれば、虚里の動を感じることはありません。

左乳下の心尖の拍動は、元気が虚弱して衰亡し、生命が脅かされたときに出現します。

肌に触れている服の上からでも拍動を確認できると、すでに臓腑の気が衰微して、宗気が外に漏れ出ていることの表れとします。

宗気とは、鼻から吸収した清気と、脾胃によって消化吸収された水穀の精気が結合したものです。

宗気は、肺において形成され胸中に蓄積され、胸中にて身体を栄養する「営気」と外邪から身体を防衛する「衛気」に分かれて、全身に運ばれていきます。

「虚里の動」は、この宗気が漏れ出ていることを意味します。

宗気が漏れることは、生命を維持できない危うい状態なのです。

 

このように「虚里の動」とは、「胃の気」と「宗気」に関係していて、元気の衰微と残された生命力を測る重要な反応ということになります。

 

 

 

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