中風
- 2月13日
- 読了時間: 4分

中風という視点からの「花粉症」
毎年この時期になると、「もう花粉が飛んでいるのですか?」という声を多く耳にします。今年も一月二十日過ぎから、のぼせ、目のかゆみ、鼻のむずむず感、頭重感といった症状を訴える方を診てきました。そして例年通り、2月3日の節分を境に、いわゆる花粉症の状態へと移行する人の割合が一気に増えました。
二月上旬、近畿地方中部でも雪が降り、八日には積雪がありました。厳しい冷え込みが続くなかで「花粉が大量に飛んでいる」と考えることに、どこか違和感を覚える方も少なくないでしょう。
ここで一つ、古い言葉を思い出してみたいと思います。――「中風(ちゅうふう)」です。
中風とは何か
中風とは、文字通り「風に中(あた)る」ことを意味します。現代では脳血管障害を指す言葉として用いられることが多いですが、本来の東洋医学的な中風は、もっと広い概念でした。
喉の痛み、くしゃみ、鼻水、目のかゆみ、悪寒、発熱、頭痛、関節の違和感。
これらは外界の「風」によって体表のバランスが崩れた状態と捉えられていました。つまり、外から侵入する風邪(ふうじゃ)に身体が影響を受けた状態です。
東洋医学でいう「風」は、五行では木気に属します。木気は春を象徴し、のびやかに上へ外へと発散する性質を持ちます。春は風が吹きやすい季節であり、人体もまた内にこもっていた陽気を外へ向けて動かそうとします。この動きが過剰になれば、のぼせ、目の充血、鼻の症状となって現れます。
春ゆえに風が動き、風にあたる。だから中風なのです。
花粉症は本当に花粉だけが原因か
現代では、これら一連の症状を「花粉症」という一語で説明します。確かに花粉という物質的要因は存在します。しかし、同じ環境にいても症状が出る人と出ない人がいるのはなぜでしょうか。
一月下旬から現れたのぼせ傾向、節分以降に増える症状の集中、そして寒波による悪化。これらは単に花粉量の問題だけでは説明がつきません。
東洋医学の「運気論」
の観点から見れば、寒暖の変動、気圧の変化、年ごとの気の偏りが人体に影響を与えます。冷え込みは一見「寒」の問題のようですが、体内に鬱滞した熱を表面に押し上げることがあります。寒さで閉じた体表が、ふと緩んだ瞬間に内熱が上衝し、目や鼻に症状が集中するのです。
花粉が飛んでいるから症状が出る、という単純な因果ではなく、春の木気の昂ぶりと個々の体質が重なった結果と見るほうが、はるかに整合的です。
中風への対応
かつて中風と考えられていた時代、人々はどう対応していたのでしょうか。
第一に、風に当たり過ぎないこと。特に首筋や背部を冷やさないことが重視されました。第二に、春の養生として、過度な発散を慎み、肝の昂りを鎮める食養生や生活を心がけました。早寝早起き、軽い運動、酸味の適度な活用などはその代表です。
そして鍼灸では、体表を整え、気の昇降出入を調和させます。単に鼻の周囲だけを処置するのではなく、全身の気の巡りを見極めます。のぼせが強ければ上実下虚を調え、冷えが潜んでいれば温補し、風が盛んならば疏風の手当てを行う。そこには「人を診る」視点があります。
概念を問い直す
花粉症という言葉は便利です。しかし、その言葉に縛られることで、本来見えるはずの体の変化を見落としてはいないでしょうか。
一昔前まで語り継がれた中風という概念は、単なる古語ではありません。春という季節と人体の関係を読み解く智慧です。
今年は例年より早い、と感じるその直感。そこには、あなた自身の身体が発している確かなサインがあります。それを外の花粉のせいにするだけでなく、内なる木気の動きとして捉え直すこと。そこから養生も治療も変わります。
春は命が芽吹く季節です。同時に、風が動き、体が揺さぶられる季節でもあります。中風という古い言葉を手がかりに、花粉症の常識を一度問い直してみませんか。
身体の声を丁寧に聴くこと。それが、真の予防への第一歩なのです。


コメント