同病異治
東洋医学の診断と治療には、西洋医学のそれとは大きく異なるところがあります。
西洋医学は、病名によって、診断し、治療を行います。
そのため病名がはっきりしない症状は治療できません。
それに対して、東洋医学は、病名があってもなくても関係なく治療することができます。
例えば、腰痛の場合、解剖学的に診断すると、腰に関係する大腿部、臀部、腹部、背部、上腕などが骨格的、筋肉的に影響することが考えられます。
整形外科では、多くの場合、腰部付近のレントゲンやMRIなどの検査によって、骨格の異常の有無を確かめ、痛みがあるようであれば、湿布や注射で消炎鎮痛を目的とした治療を行うのではないでしょうか。
解剖学的には、腰部以外のところの影響もあり得るのにも関わらず、腰の部位しか調べないのが整形外科です。
目に見えるところだけで診断するため、本当に腰痛の原因がわかるのか疑問が残ります。
どこの整形に行っても、治療法にほとんど差がないところも西洋医学の特徴でしょう。
東洋医学ならば、『「腰痛」に効く特効穴があるのでは?』と期待される方もおられるかもしれませんが、実際はそのような解かりやすい特別なツボはありません。
そんなに簡単に診断と治療ができたら治療も楽で良いのですが、解剖学的に見ても背部の筋肉以外に関係する部位が存在し、いわゆる背中の腰あたりの治療で症状が改善するとは限らないのです。
そのために重要になるのが、問診と体表観察です。
まずは「望診」から始まります。
治療院に入ってこられる歩き方で、身体のバランスの偏りを分析します。
それからどのような姿勢で痛みが悪化するのか、何をすれば痛みが軽くなるのかなどを確かめ、腰痛に至るまでの経緯を問診で調べます。
「問診」では、痛みが出る前の生活について詳しく効くことが多いです。
ほとんどの方が、痛みの状態や腰痛後の症状について詳しく話をされますが、それよりも重要になるのが腰痛を起こす前の生活の在り様です。
一見、腰痛と関係ないようなことを聞かれていると思う方もおられますが、腰痛を引き超す原因を特定するために、省くことができない重要なプロセスになります。
そしてもっとも重要になるのが、「切診」である体表観察です。
腹部と背部の肌のツヤ、色、皮膚やツボの状態を詳しく調べます。
骨盤を中心に、足と手の指先、頭の位置など骨格の異常を調べます。
さらに脈や舌の状態などから得た情報を分析し、「証」を導き出して、腰痛の種類と治療方針を決定します。
これだけのプロセスを経て、初めて鍼灸治療を行うことができます。
診断と治療が表裏一体となっていますので、診断が正しければ、治療効果がすぐに現れてきます。
腰の痛みの変化を確認しながら治療をすすめるので、問診から得た生活習慣と治療内容を照らし合わせることで、腰痛の根本原因を割り出すことができます。
東洋医学による「腰痛治療」は、ここまで細かく診断しますので、腰痛だからといって、単に腰部だけの問題として扱うことはありません。
「同病異治」とは、読んで字のごとく、「同じ病を異なる方法で治す」ことを意味します。
同じ病とは、同じ症状ということで、「腰痛」という病名にこだわることにあたります。
それを異なった方法で治すのは、腰痛を治す方法が多種類あるということではなく、腰痛自体に多様性があり、それぞれに適した治療を選択しなければ効果が無いことを強調しているのです。
東洋医学が優れているところは、腰痛だけでなく、どのような症状に対しても、的確な診断とそれに対応する治療ができるところにあります。
それを短い言葉で表したのが、「同病異治」ということになります。