不妊治療を振り返る
(後編)
最後に残された受精卵は、医師からもっとも妊娠の可能性が低いと診断された卵です。
この卵に最後の希望を託すことになりました。
6回目の胚移植までに、Kさんはある資格試験を受けることになっていました。
胚移植を延期してまで挑む、資格試験です。
生理の後の体調の回復にもそれの方が良いと思われました。
この間、仕事と学習の両立で、少し体調を崩しましたが、無事に試験を乗り越えられ、その後は速やかに体調も回復することができました。
2週間に一回のペースでの治療を地道に継続することで、Kさんの体調はこれ以上ないくらいに良好の状況が続きました。
確かに最後の受精卵ということで、卵の質には心配が残りましたが、Kさんの身体に赤ちゃんを育むだけの力が備わっていることは二度の結果からも明らかです。
不安と期待の入り混じる中で、7回目の胚移植を終え、心音が聞こえる日を待つことになりました。
そして胎盤着床から7週目、とうとう待ちわびた心音を聞くことができました。
このことは、胎盤への着床という一つ目のハードル、心音という二つ目のハードルを無事に超えることに成功したことになります。
さすがに、この朗報には興奮を隠すことができませんでした。
「赤ちゃんはコウノトリが連れてくる」と申しますが、Kさんの祈りが天に届いたとしか思えない結果でした。
西洋医学では、不妊治療と不育症の治療の双方で、診断と治療を続けておられます。
心音と赤ちゃんの大きさで、赤ちゃんの発育状況を確認するようです。
双方の医者で意見が分かれたようですが、どちらの先生からも、心音か大きさのどちらかに合格点がもらえているとのことでした。
医師の意見が分かれた理由は不明ですが、どちらかに合格をもらえたことから、プラスに考えて前向きに生活することで共感しました。
しかもKさんの身体にはすでにうれしい変化が現れています。
なんと「つわり」があり、あたたかいご飯が食べたくなくなったからです。
においを嗅ぐだけでも吐き気がするほどらしく、この日の治療は、通常の調整に加えて、「つわり」の調整を行うことになりました。
治療の効果はてきめんで、治療後から吐き気が消失し、食欲が少し回復したように思えたそうです。
食欲の減退は、その後3カ月ほどは続いたと思います。
それでも鍼灸治療の効果もあり、無事にこの期間を乗り越えられました。
ここに至るまでに、Kさんは不安や絶望を幾度とも繰り替えされたと思われます。
もっとも妊娠に確率が高いとされた受精卵から順番に胚移植は行われます。
鍼灸治療を行うまでに、すでに2回の胚移植を終えられていましたが、子宮内膜に着床することができませんでした。
このころ体質に不安を感じておられたKさんは、体質改善を目的に和鍼治療院で鍼灸治療を受けてみることを決意されます。
治療をはじめてから三カ月を経過したころから体質の変化を感じるところまで改善し、鍼灸を開始してからの初めての胚移植を試みることになりました。
5回目の胚移植でしたが、初めて胎盤に着床したことが確認できました。
しかし計測によるホルモン値が安定せず、心音が聞こえることはありませんでした。
心音という新たなハードルの存在を知りましたが、あきらめることなく体質改善と体調管理に努めることを続けられました。
その努力は、治療を重ねるごとに実感という形でご本人へと還元され、体調は順調に回復し、元気な身体を取り戻すことに成功されたと思います。
残念ながら受精卵との相性もあったのでしょうか、6回目の胚移植も心音が聞こえるところまで行くことができませんでした。
望みを託した最後の受精卵(7回目)が、ついに心音が聞こえるところまで成長してくれました。
コツコツと続けてきた体質改善と体調管理が実を結んだと瞬間でした。
不妊治療の種類は、排卵誘発剤を使う人工授精やタイミング療法に始まり、それよりも妊娠の確率が高いとされる体外受精までいろんな方法があります。
いずれにしろ、どの不妊治療もホルモン剤を使わない治療はありません。
たとえ不妊治療だからとは言っても、スポーツ選手が使用すれば問題となるホルモン剤を多用することは女性の身体にかなりの悪影響を与えることになります。
Kさん以外に担当させてもらった女性の中には、長期のホルモン剤の使用による影響で子宮内膜が肥厚しなくなり、受精卵が着床しにくい胎盤になった方や、卵が急激に減少してしまった方もおられます。
医療が原因による新たな不妊症に陥る危険性が、ホルモン剤を使用することで増加することを知ってほしいと思います。
それは単に不妊症が続くだけではなく、女性の体質に重篤な傷を残すことになります。
不妊治療に訪れた女性が、新たに生じる病気を防ぐために治療を続けるケースまであります。
Kさんの不妊治療の成功例は、わたしにとっても貴重な経験となりました。
Kさんの妊活のプロセスを振り返れば、体質改善と体調管理が、不妊治療にとって、とても重要であることが証明されたと思います。
Kさんは高齢であったことが逆に幸いとなり、体外受精の道を割合に早く選択されました。
そのため、排卵誘発剤を多用していないことも功を奏したのではないかと思われます。
しかも胚移植を繰り返す過程において、体質改善の必要性に自ら気づかれ、東洋医学による鍼灸治療を併用する決断をされたことです。
和鍼治療院での治療と家庭での養生をきちんと続けられたことは、体質改善と体調管理の両面において貴重な支えとなり、元気を取り戻す原動力となりました。
女性の身体と精神面が安定することが、妊活にはとても重要です。
Kさんの貴重な治療体験を知っていただくことで、現在、不妊治療に取り組んでおられる一組でも多くのご夫婦の希望の光になれたら幸いです。