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東洋医学と民間療法

東洋医学は医学である

 

古代より日本では、「医」は巫女、陰陽師、修験者たちによって、呪術的な医療が行われてきました。

医学とは、こういった呪術的な要素を含むことなく、生体(人体)の構造や機能、疾病についての理論と、疾病を診断・治療・予防する方法を備えている必要があります。

「周礼」という西周から戦国時代までの官制や施設などについて記された重要文献の中に、宗教活動は「春官宗伯」の管理下、医療関係の担当者は「天官冢宰」の管轄下にあったことが記されています。

このことから春秋戦国時代〔紀元前770年~476年〕には、古代中国医療は巫術から離脱し、独立した医学として体制を整えていたことになります。

この点において、西洋医学のみならず、三大伝統医学と呼ばれるものも、医学として条件を十分に満たしていると見るべきです。

それ以外に、呪術的要素を含まないものに民間療法があります。

東洋医学と民間医療を混同する方がおられますが、民間療法は医学と呼べる学問体系がありませんので、東洋医学とは全く異なるものであります。

肩こりなら肩に、耳鳴りなら耳に、胃腸が悪い時はお腹に、鍼灸をすると思われる方が多いのですが、それは本来の東洋医学ではありません。

それと同じように、肩こりには葛根湯、花粉症には小青龍湯、うつ病には抑肝散というような漢方薬の使い方は、本来の東洋医学ではないのです。

民間療法の中にもすばらしいものがたくさんあるのすが、そのひとつに、日本古来の民間薬として陀羅尼助(だらにすけ)があります。

陀羅尼助は和薬の元祖と言われており、伝承によると、7世紀末に疫病が大流行した際に、役行者(役の小角)がこの薬を作って、多くの人を助けたとされています。

その効果は、下痢止めや胃腸の調子を整えるもので、食欲不振、腹部膨満感、消化不良、食べ過ぎ、飲み過ぎ、二日酔いなどに現在でも使われています。

陀羅尼助は、オウバクやゲンノショウコウなどの複数の生薬を集めて作られていて、この中の黄柏(オウバク)は東洋医学においても、身体の悪い熱を除くことに使われる生薬であります。

東洋医学でも使う黄柏は、ある種の下痢の際に使われる点では、陀羅尼助と同じような使い方をしますが、炎症の激しい湿疹(アトピー性皮膚炎)や不正出血、耳鳴りなどの際にも使われます。

そして同じ黄柏(オウバク)という生薬を、同じ病名の下痢という症状に使う時でも、東洋医学の場合は、単に下痢を止める目的に使うのではなく、どのような原因による下痢なのかを分析し、必要性がある場合にのみ配合します。

炎症がある湿疹や不正出血、耳鳴りの場合でも同じで、単に病名や症状に対して黄柏を使うことはありません。

つまり、胃腸の調子が悪い時に、陀羅尼助を飲んでよく効くこともあるかもしれないが、効かないときもありえますし、悪化することもありえるということになります。

もし効かなかった場合、学問体系がなければ、次に打つ手がありません。

東洋医学の場合、学問体系がしっかりしていますので、効果が出ないこと自体が考えにくいことであります。

そして万が一に効果が出ないことがあっても、東洋医学の理論に基づいて、生体の把握と、症状に対する治療法を見直すことが可能となります。

学問体系がしっかりしている医学は、生体(人体)と病をある原理に基づいて診ていくものであり、病の原因は何なのか、病のメカニズムはどうなっているのかという原理的なものを解明し、それに対する治療を選択し、施術することを重要視しているといえます。

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