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  • 小島 秀輝

小さな約束 フィギュアスケート篇 後編



翌日、昨日よりも前屈ができるようになっていたので、治療後の状態はさらに良くなることができました。

大会までの日数に余裕がないことから、Mちゃんとお母さんと協議して、明日から練習を再開することに決めました。

怪我が完治しているわけではないので、練習再開のメニューは、スケーティングと一回転のジャンプに限定しました。

練習後は、患部を必ずアイシングするように指示しました。

疲労回復と怪我の修復のため、この日から入浴も許可しています。

最後に一つ重要な約束をしました。

二回転ジャンプを試しても良いけど、10回ぐらいまでとして、一気に練習で飛ぶ回数を上げないこと。

スピンでも足に違和感や軽い痛みが出る種目があるようなので、練習は足に負担がない物だけすることと、スピンの練習強度も急激にあげないことを協議して決めました。


怪我をしてから3回目の練習までは慎重に強度を上げることができたので、怪我の悪化もなく、スケートのパフォーマンスも順調に上がっていきました。

唯一気になるのは太腿の痛みが解消されない点で、前屈はできるようになりましたが、お尻の付け根の痛みが残ることに加えて、股関節の前の部分にも痛みが出るようになったことです。

股関節の前の部位の痛みは、スピンの際に右足を上げる動作で出るようです。

痛みが太腿の前後に出るので、痛みが出る練習を継続することは控える必要があります。

2回転のジャンプを練習する回数には制限を設定、スピンには4種類あって、その内2種類は禁止することになりました。

4回目の練習、Mちゃんの順調な回復を確認したコーチの指示もあり、Mちゃんは少しだけ強度を上げてしまいました。

股関節の前の部分が痛むようで、少し悪化したのではないかと心配になりました。

太腿を上に引き上げる動作に関係するので、ジャンプでも、スピンでも、今後のパフォーマンスに大きな影響を与える可能性があります。

ストレッチの際、開脚をするときにスピードの加減がおろそかになるのも見ていてドキドキします。

繰り返し、動作はゆっくりと慎重に行うように注意しました。

幸い、練習の強度を上げた影響は怪我の回復の妨げにはならず、一日のオフを挟んだことで、スピンの練習を一つ増やせるところまで回復できました。


順調に回復しているように思えるときほど、大きな落とし穴があったりするので、復帰を焦ることなく、いかに慎重に練習メニューを増やしていくのか、常に正解を模索するしかありません。

本来は、競技者とコーチ、治療師またはトレーナーの三者で協議を重ね、パフォーマンスを確認しながら復帰までの練習を考えることが重要です。

Mちゃんのお母さんは、スケートのことも熟知しており、栄養学やトレーニングに関しても知識が豊富です。

お母さんがもう一人のコーチと言っても良いくらいですから、Mちゃんにとっては非常に頼りになる存在です。

お母さんとの確認を怠ることなく、Mちゃんの言葉に耳をしっかりと傾けて、慎重に回復への道を進んでいきます。

「あともう少しのところで気を抜かない」、これが「小さな約束」です。

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